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筋電義手のトレーニングをLEGOで行う(I)

友人の義肢装具士のマツバラさんに誘われて、筋電義手のユーザーさんに、LEGOを使ったワークショップを実施しました。
小学生の児童2名に夕方1時間半ほどのワークショップだったのですが、途中休憩を挟むのを忘れるほど集中してもらえ、それぞれが所定のモデルをキチンと完成し、満足してもらえたようです。
研究所の作業療法士の方たちは、筋電のトレーニングだけでなく、脳卒中の後で必要になる高度機能障害の治療にも役に立ちそうだという感想を持たれたようです。
私自身、当初の予想以上に成果があったのですが、いくつか重要なポイントがあったと思いますので記載しておきます。

訓練に適切なLEGOは?


訓練に適しているLEGOのセットの条件は、以前にあげた4つの定義。これをもう少し具体的に説明します。
LEGO好きなんでちょっとくどいよね。でも、何でもいいってわけじゃないんだ。)

1. 組み立てる時間がかかりすぎないか?(金額が高すぎないのと同義)

予算の問題もありますが、子供が集中できる限界といわれる90分を超えても完成できない規模のものはパス。理想は3000円〜5000円程度のセット。

2. 一度作って終わりだと、それほど面白くないので、繰り返し遊べるパーツ構成か?

繰り返さないとそもそも訓練にならない。リピートすることで脳の中に回路が形成されるんですしね。でも、これが非常に問題。オルタネイティブモデル*1の数がたくさんあるモデルは、今年のラインナップではほとんどありません。
もともと、オルタネイティブが3つ以上あるのは現在CREATORシリーズだけです。
そのCREATORシリーズ*2では2005年のカタログまで(完成説明図*3/完成写真*4)と表記され、#4886(3/9)#4507(9/26)#4888(10/25)など、非常にボリュームのあるオルタネィティブを準備していました。
しかし、2006年のカタログから「3IN1」の表記が併記されだしました。「完成写真」は優先度がぐっと落ちたのです。
翌年、2007年のカタログから「完成写真」の表示は消えました。
そして、2008年のカタログでは全ての新賞品がこの「3IN1」になった。確かにモデルひとつづつの完成度は上がったが、オルタネイティブの数は激減し、「完成写真」というチャレンジは全くなくなった。自由度の高いおもちゃ、ユーザーを育てる難度という意味で、これは大きな後退だと思う。Designer Setの夢と理想は翳ったのかもしれない。*5

3. 細かすぎないか?(特殊部品は多すぎないほうが良い。特殊パーツは自体は否定はしない。要は使いどころ。)

2.の説明と重複するが、セットの細密化ということで、特殊部品の割合が増えた。技手の訓練という意味では、基本ブロック、特に板ではない1×1×4あたりのブロックを多用して欲しいところなんだけど、1×2×1/3などの細かいパーツが多い。これは義手ユーザーの訓練に限らず残念なことである。
ただ、4.で記述することと重複するが、可能性を閉じてはいけないと思う。最終的には複雑なモデルを作りたくなるだろうし、訓練すれば組めるようになるかもしれない。
ここは、それぞれの子供の能力の成長を見て、それに応じた難度のセットを準備していくことが重要。

4. ある程度幅広い年齢に応じているか? 幼稚すぎてもダメ

一方で、特殊部品が全くないのも問題である。10歳の子に4歳から用の基本ブロックを与えるのは、本人の可能性を否定する、完全にまずいやり方だと思う。筋電義手は大きな可能性を秘めており、きちんと訓練すればLEGO社の対象年齢に見合ったセットの組み立てが可能だと私は確信している。*6
問題はそこに至るために、適切な階段を準備できるかということだ。
そうした階段を形成するための導入として、低年齢の子供に基本ブロックのセットは極めて重要だと思う。


加えて、今回は以下も考慮。

5. 建物、関節ブロックを使用した動物は除外。

建物は、地面に積み上げていくため、左手の必然性が下がるため今回は除外。
動物は、スタッドの向きが変わる組み方が多く、最初の導入では避けてみた。関節ブロックの調整ももう少しテストしてからにしたい。
できれば片手サイズの自動車ものが最適。

というわけで、今のところ、現行商品から該当はなし。仕方なくストックから選んだのは下記のセット。
2005年の商品#4883 Gear Grindersです。

  1. 価格は3000円以下
  2. (完成説明図:17/完成写真:8)本当に数年前までは、オルタネイティブが二桁のセットがあったんです!
  3. 基礎ブロックと特殊ブロックの比率は、約1:1。基礎ブロックはまだ多い方。
  4. 写真で見るとピンとこない人もいるかもしれないんだが、組むとかなりカッコいい。小学高学年でも満足してもらえそう。
  5. 筋電で持てるサイズ

これは上記の条件に全て合致します。

レゴ (LEGO) デザイナー マルチカー 4883

レゴ (LEGO) デザイナー マルチカー 4883

もう一人、低学年用には、#6177 LEGO基本ブロック(XL)と#626 基礎板をセレクト。筋電の出力がまだ小さいらしいので、今は基礎ブロックでザクザク組めるように。
プランを息子に説明すると、その子も車が作れないと不満じゃない?とのこと。確かに。
手持ちのタイヤパーツなどを少しバラで追加で持っていくことにしました。
レゴ (LEGO) 基本セット 基本ブロック (XL) 6177

レゴ (LEGO) 基本セット 基本ブロック (XL) 6177


その2へ続く→筋電義手のトレーニングをLEGOで行う(II)


関連エントリー


●関連サイト

*1:ひとつのセットの中に入っているブロックで、箱に表示されていない別の組み換えモデルのこと。

*2:正確にはこの年まではDesigner Setというカテゴリーだった。詳細はこちら→

*3:実際の作り方を全て表記

*4:完成写真のみを表記。背面や内部構造は創造して作る必要がある。

*5:これは一概に悪いとは言えない。CREATORシリーズは明らかに「そそる」モデルを毎年提供している。20近いオルタネィティブの制約から離れて3つを確実に完成度高く作るという事も、大きなチャレンジだったとは思う。私が完成写真からモデルを組むということに特に拘るのは、LEGO社の数十年にもおよぶ伝統だっただけに残念であるという一種の感傷かもしれない。また#4892を3年以上販売し続けるなど配慮も伺える。

*6:もちろん何の確証もなく言っているのではない。自分の左手を器具で固定し、擬似的に筋電と同じ可動範囲にした上で、全てのモデルの組み立てと分解を行った。まる2日かかった。難度の高いケースはあったが、消して不可能ではない。たいていは、いかに工夫するか、手ではなく頭の働きが鍵であったのだ。