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境界線上のG


GAINER*1を開発した小林さんのお話を聞きに京都工芸繊維大学の工繊会館へ。日本デザイン学会第4支部主催のインタラクションデザイン研究会に参加してきました。
北山通りまで来るのは何年ぶりだろう。


スケッチするように気軽にハードウェアを設計するというGAINERの思想は、十歳の頃にディジタルICを使ったエレクトロニクスの洗礼を受けた身には輝いて見える。ぜひ直接お話を聞きたかったのだ。


もちろん、勤務時間を割いて行くのでそれなりのストーリは必要。
デザイナがスクリプトを書いたり、プログラマがレイアウトを描いたりすることで相互理解が深まり、新たな質の創造を目指すことが求められている。同様な関係性として、ハードウェアエンジニアリングに、デザイナやプログラマが従来より自由に、そして能動的に関与することは、常に新しい入力機器を使用した新しい体験をもたらす商品開発を求められている我々に取って重要である。
まぁ、そんな感じ。


デザイナ/プログラマ間で唯一気軽な共通の開発環境がFlashであり、GAINERはデザイナ/ハードウェアエンジニア間に同様な環境を提供するというお話しは、とてもシンプルでパワーがある。まさに、我が意を得たり。境界線上で何かが生まれるのだ。


同様な開発環境はLEGO MINDSTORMでも可能といえば可能なんだけど、部品や拡張性にかなり制限がある。まさに待ち望まれていたツール・キットなんだと思う。


理想的には、GAINERを使った学生の研究には半年から1年かけたいとのこと。スケッチと言うには少々長い。運用や追加機器を改善し対処しているとのこと。なるほど。


二日で何かを作るワークショップも大学生向けに開催されている。ハンダゴテを握ったこともないような人も、集中して手伝いなしで組み上げているとのこと。確かに何か具体的なモノを作るワークショップは最近気になっているのだ。


一方で、大学生もいいんだけど、本当は小学生高学年にこういう体験をしてほしいと切に願う。何となく小林さんも子供の頃、エレクトロニクスに親しんだような気がするだけに余計そう思った。

イテレーションとダーティーワーク

お話を聞いていて気になったタームがこの二つ。
イテレーション」ってちょっと耳慣れないんだけど、反復ということらしい。ループプログラムっていえば納得?ここでは、インタフェース設計のかなり初期段階での反復による試行錯誤っていうこと。「スケッチする」という言葉へのこだわりと呼応する単語だと思う。
そして、その段階では「ダーティワーク」、つまりその辺のジャンクをビニールテープでグルグル巻きにする程度のハードウェアスケッチ、取り合えずアイデアを現実に可視化させることが重要ということ。完成度を求めたら、イテレートする暇が生まれないよねという話。


ぼくの経験上、ダーティワークを嫌う人はけっこういて、多くは2種類に大別される。ひとつはとにかく完成度が高くないと人には見せないし、完成度の高くないものを見せられても評価しない人たち。ちょっと想像力が足りなくて、柔軟性にかけるプライド高きクリエイタに多い気がする。
もうひとつは、何だかすぐに手が動かない人たち。子供の頃に粘土遊びをしてない、タブレットでデッサンを始めたようなニュージュレレイションさん。そういう意味で小学校時代での広いデザイン教育が必要だと思うんだけどなぁ。
まぁ、大人に対してでも、きっかけ次第でうまく行くものです。

何が牽引するのか

体験>アイデア>プロダクツ>インタフェース>技術
という感じなのかな。みなさんここらへんは共通認識みたい。
日本人はえてして、道具指向と言うか、技術を使うことに喜びをすぐ見出しちゃうんだけど、ここは「表現指向」で、ずっしり行きたいものです。
実際、逆のルート「技術牽引表現」はあんまり成立しないんだよね。90年代にCGが騒がれたように、技術公開の初期くらいかな。

漏斗


Sketching User Experiences: Getting the Design Right and the Right Design (Interactive Technologies)からの引用でファンネルデザインという図とのこと。左側のスケッチの段階では、「ダーティーワーク」による「イテレーション」を行い、右のプロトタイプへ絞り込んでいくとの事。
これは実に示唆に富んだ考え。多産多死がアイデア創出の原則で、それを可能にするにはどうしたらいいか。悩んでいたんだよね。


ちなみにGAINERより複雑なシステムが組めて、無線接続が前提の新しいツールキットが「Funnel」だそうです。この図の「スケッチ」から「プロトタイプ」の段階までFunnelで運用が可能との事でした。

おまけ

メカ・ハード・デザイナ・プログラマが一つ屋根の下に近接していて、それぞれが相応の技術を持ったプロフェッショナル。しかも、常に新しい身体的体験の提供を志向する制作環境。


フィジカル・インタフェース制作にとって、夢のような環境。それがアーケードゲーム制作の会社だということを、はからずも知った京都行であったとかね。

ちょっと手前味噌だったね。

●参考サイト

関連エントリー

Sketching User Experiences:  Getting the Design Right and the Right Design (Interactive Technologies)

Sketching User Experiences: Getting the Design Right and the Right Design (Interactive Technologies)

*1:Gainerと言う表記が多いけど、公式HPはGAINERなのね。