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視覚の拡張

図書館でふと手にした「エクサバイト」という本。
この本は、ヴィジブル・ユニットというアイデアを核に書かれている。

仕様一覧

ヴィジブル・ユニットの特徴は下記のとおり。

  1. 額などに外科的に装着されたユニット。キャメラ、マイク*1と記憶装置が一体となっている。記憶装置の容量は15テラバイト。(人間の一生分が足りるという設定。)
  2. 瞼を閉じる(瞬きは除外)と録画は停止。それ以外は連続録画。録画中は装置のLEDが発光し録画中であることがわかる。
  3. セキュリティが必要な企業や官公庁などの施設内、映画館や公演、公衆浴場などは、電波ジャミングによりスクランブルがかけられる。(録画は停止。)
  4. 録画した画像を閲覧できるのは本人のみ。
  5. 録画した画像は別媒体にコピーできない。
  6. 録画した画像は消去できる。
  7. 録画した画像は司法の対象外。
  8. 装着者の承諾を得た上で、リアルタイム映像の外部出力が可能。(ルポタージュ手法の延長という解釈という設定。)
  9. 装着者の死後、遺言により他者へ閲覧権を相続できる。(法人は不可。)
  10. 装着者の死後、100年が経過すれば映像の公開が可能。
  11. 映像にはタグを埋め込むことで閲覧時の検索が容易になる。

だいたいこんな感じ。

視覚への欲望

「視覚の保存」という身体性の拡張願望は、ぼくにも激しくあって、ジャンクのデジカメをばらして頭部に装着できるユニットを作りたいとかねてから思っており、ちょっと試作を作ってみたりしているくらいだ。ハンディカメラの開発が映画史に残した功績とあわせて考えれば、こうした機器の開発がメディアの歴史に新たな地平を開くことは容易に想像できる。

今後の夢としては、常に自分の視点を録画できる、あんまり目立たないウェアラブル・キャメラシステムを、そこら辺のジャンクパーツから作ってみたいですね。仕事の資料撮影や、ロケハン撮影などで便利だと思うんだよね。今ならかなり高性能のものが小型に作れると思うんだ。何よりも自分の視覚データを、脳とは別の記憶媒体へバックアップとしてメモリーしておきたいってみんなも思うよね。ほら、自己情報の外化って大切だってよくいうじゃない。
                     ──────────2007年11月30日原稿に悩むより

ちなみに、本のタイトル「エクサバイト」は単位。1エクサバイト=1,000,000テラバイト。そういえば「ギガ・テラ・ペタ」というタイトルの本もあった。

画質ってどうよ

ところでこのヴィジブル・ユニットの容量、15テラバイトで一生の視覚を映像化した場合、どれくらいの解像感があるのだろうか?
スクランブルや睡眠による停止時間を仮に50%として除き1日は12時間、装着年数を100年で計算すると、12時間×365日×100年=438000hになる。これで計算すると1時間あたり約34メガバイト
何だ!これはかなり少ないぞ。
ちょっとびっくりだ。
HDはおろかDVDにも満たない。
先週、1時間ぐらいの映像(D1サイズ)をQuickTime(H.264)で焼いたときも、6Gを超えてDVD2枚に分けざるをえなかったんだ。
34メガなんて、320×240pixelでもキツキツだ。多分もっと小さくなるよな。これで作中にあるような美術鑑賞なんてちょっと難しいので、実際はもっと録画時間は短い設定なのかもしれない。フレームレートを落とすという手もあるがフレーム間圧縮が利かなくなるし、結局放送用途では難しいよなぁ。まぁぼくのことだから、また計算間違いをしているかもしれないか…。(多分、どなたかがご指摘くださるはず。)


実際の人間の視覚の保存はもっと脳と網膜が一体に機能しているそうだ。重要な部分に重みをつけ、かなりの部分をバッサリ省略し、足りない部分を総合的に推論したりしてデータとしては相当圧縮(結果として少ないという意味で現在の圧縮アルゴリズムとはまったく異なると思う。)ことになっている。そもそも視神経のデータ転送レートを想像すればHDなんてとても無理だと思う。それでも鮮明な映像記憶を持つことは可能なんだから不思議な話だ。
今回のお話は脳と眼球のネットワークには介入しない、純粋にマシンで閉じたネットワークの話なんで上記の画質・解像度を裸眼で見るということになると思う。だからなおさら低い解像度というのが納得いきにくい。

イデアへの共感

正直、作劇としても解像度が低く、細かな矛盾点を言い出すときりもなく、読み辛い面もあったが、一気に最後まで読めたのは、この「視覚を保存する」という最初のアイデアへの共感に他ならない。ウエアラブヴルカメラの実装の普及を仮想し、相応に行き着くところまでをシュミレートしたらどうなるの?ということに対してのひとつの解答としては充分に楽しめた。


図書館や本屋でランダムに出会う本って楽しい。体系的に知るには「amazonのおすすめ商品」もいいんですが、こっちの方は驚きがある。今後も両方あってほしいものです。

エクサバイト

エクサバイト

*1:これは耳に埋め込むとのこと。身体内ネットワーク?接続手段やセキュリティなどは謎。