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怒ると血圧が上がるのは本当だった

空港に着くと大勢のアジア人のバックパッカーと共にロビーへと吐き出された。わけのわからないまま飛行機に乗せられたスタッフがほとんどで、これからどうしたらいいかわからないまま人の流れにのって歩いている。やがてエレベーターホールに突き当たる。読めない言葉のポスターが乱雑に貼ってある。無言の疲れた顔が並ぶ。ふと見ると、顔見知りの男がいたので、この後の段取りについて尋ねる。


「なぁ、どこのホテルにチェックインしたらいいの?作業は明日から?」
「知らんわ」
「おい、お前ンとこの機種の市場対応なんだろう」
「うるさいんじゃ、ボケ」


なぜか、大学の同期に似た顔の男は、いつでも絡んでくる役どころだ。そんなヤツにきいたおれがバカなのだ。
まぁ、いい。うちが迷惑をかけることだってある。
それよりも、これだけの人数が、あてもなくぶらぶらしているのはまずい。早く責任者を探さないと。
ロビーを抜け、広い階段が川縁まで続いている。対岸には巨大なホテルが金色に輝きながら連なっている。〝PeGs〟〝MRLF〟モスクワでは日本で全く聞かないブランド名やロゴマークばかりだ。


少し上がった階段の踊り場に二人の男がいた。一人は知り合いで、今回のリコール機種の責任者だ。これで話がつけられると思い足早に階段をあがる。
あいにく、近づくといつもはバリッとした上級プロデューサーも、目の焦点が合わずぶつぶついっている始末。海外でも通じる彼の携帯の番号だけ聞き出せたらめっけもんだろう。
傍らに背の高い白っぽい薄い色のスーツを着た男に目をやる。


「いったいどのホテルに泊まったら良いんですか?作業の開始は何時?どこに集合したら良いんですか?」
「一人あたり一日の経費は70ドルまで。費用の範囲内なら、どちらのホテルに泊まっていただいても結構です」その男はぬけぬけといいやがった。
「あのね、初めて外国に来たスタッフもいるんですよ。そちらで旅行代理店か何かを通じて、何十人か全員の宿泊や食事を手配するのが筋なんじゃないの?」
「いえ、今回はそのような指示は承っておりません。費用は一人70ドル。出張から帰ったら3日以内に必ず清算してください。両替のレートは皆さんが実際に両替したときではなく、清算した日のものになります。それでも領収書はなくさないようにしてください。清算ができなくなります」


ダメだこいつ。
すぐに戻って全員の点呼、人数を確認して適当なホテルと部屋や費用の交渉をしなければならない。まずは暖かいものを晩飯にありつけるといいのだが。あのくそ生意気な大学の同期に似た顔のヤツだってキッチリ成田まで面倒を見ないといけない。
振り返って茫洋とした男の顔を睨めつける。「あんたの名前と部署をもう一度聞いておく。日本に帰ったら首を洗っとけよ」


怒りのあまり一瞬で目が覚めた。
起きて暖かくし、血圧を計った。

  • 最高値:143
  • 最低値:94

私にとってほぼ活動時の値。
一瞬で活動状態になったらしい。
怒りや憎しみは、薪としては最高なんだよね、と改めて思った。