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デザイナー教育は教えることが大杉


先週開催された第五回情報デザインフォーラムに参加してきた。
テーマは「情報デザインとグラフィック教育」


一番ショックだったのは、日本電子専門学校さんの発表で、紙媒体の減少によって、従来のグラフィックデザイナーの需要が減っている。グラフィックデザインの教育を見直して、情報デザインの授業やデジタルサイネージの実習に取り組んでいる。という文脈。


いや〜、グラフィックって、ぼくにとっては、輝く星だったんだけどね〜。今はゲームのデザイナーで糊口を凌いでいるけど、50〜60歳になったら印刷の仕事に戻りたいと心から思っていた。それがなくなってしまうと、人から言われたのは本当にショックでした。
もちろんそれは、70年代から80年代風のアドヴァタイジングをアートとして作りたいという自己の内的欲求であって、クライアントのいるデザイン業務じゃないということは自覚している。

グラフィックデザイナーは印刷の技術にたけていなければいけないが、今後デジタルサイネージをするならmpeg技術、UIならFLASH技術など、従来より幅広い技術に詳しくなっていかなくてはならない。
スペシャリストよりゼネラリスト的視点が必要になってくる。


という趣旨の話は、ちょっと引っかかった。現場の視点からすると、ひとつもスペシャリティのないゼネラリストがうろうろされるとたいへん迷惑。ここらへんの気持ちは下記参照にお任せしてみる。

●ありがちなこと

  • 伝達事項の確認をメールや電話や打ち合わせで何度もしても、その場の判断でひっくり返す奴は必ず出る。
  • 金ではなく「この仕事は俺がやった」といいたいだけで関わってくる奴が出る。
  • 製品見積もりや開発見積もりは正確でも保守費用を舐めて後でみんな困る。保守事項の奪い合いが発生。
  • 複数社で受注を分担すると、分担する継ぎ目のところで問題が出て、だいたい地雷になる。
  • ディレクションしないディレクターと、指示を守らない下請けは、仕事が遅れていることの報告をしないという利害が一致して仲が良い。その間、いろいろ言って仕事をしない。
  • 問題が発生すると、一転して仲が悪くなって押し付けあう。
  • 人月計算で出してきた見積もりは週ごとにどんどん崩れる。人月見直しするために人日が必要になる。
  • 仕様追加することでどれだけ製品の完成度が上がるのか、仕様を削ることでどれだけ手間が省かれるのかは、あまり議論に上らない。
  • 闇雲に海外の制作体制と比較する奴が出る。(ex. このぐらいの開発案件なら中国ではいくらだ。 ex. アメリカの開発会社は進んでいる。 etc)
  • 夢を語るが夢の実現にはあまり興味がないベテランがいる会社は駄目。
  • プロジェクトが後半になってすでに開発予算が予備費に喰い込んでる。
  • 売上を拡大しようとして販路を増やすが、肝心の売るものの品質が低くて誰も見向きしてくれない。
  • 最初にちゃんと仕様化していれば後から付け足す必要もないのに、とりあえず完成させてリリースしてしまい、品質が低くブーイングが出て後から大型アップデートを余儀なくされる。
  • 現場が新しいものをいきなり試して大混乱に陥る。R&Dを軽視。
  • 見積もり段階ですでに赤字覚悟。何でお前らそんなの受注したの。
  • 人件費が安い中国に頼めば安く上がるだろうと安易に考えて発注し、グダグダな納品が来て改修に日本人の手を使ってコストも工期も二倍に。
  • プロモーション素材がBGMだけしか上がってこない。
  • OPアニメを発注しようにも絵コンテを切れるグラフィッカーがいない。先方から提案を出させても品質の良し悪しを判断できるディレクターがいない。最初からやんなよ。
  • 海外出張の手間を惜しんでテレビ会議を頻繁にやるも意志疎通がうまくいかずクソのような仕上がりの半製品が海外外注から上がってくる。
  • 会社としての重要な判断を下してもらう必要があるが、それは「売れるか売れないか」や「品質が良いか悪いか」ではなく「偉い人がその話に興味あるかないか」。
  • 権限を持っているプロデューサーがデザイナー上がりだったらチームにデザイナーが増え、プランナー上がりだったらプランナーが増える。
  • 働かない老害より、余計な口出しをする老害のほうが性質が悪い。一番困るのは予算に口を出す老害
  • 評判の良いプロデューサーは予算が足りなくなったら理由をつけて会社から追加予算を取ってこれるプロデューサー。
  • 実際に戦力になる人は、だいたい制作のカースト制度で下のほうの階級の人。
  • 仕事をさっさと終わらせて帰る奴より、仕事ができなくて日々徹夜している奴のほうが評価が上がる。
  • 評価版より先に本編パーツを上げてくる馬鹿が出る。
  • 仕事量の七割以上はグラフィック。タスクで一番つらいのは納品待ち。仕様チェックの会議で一番うるさいのはチームで一番駄目な奴。
  • 「任せてください」と積極的なことを言って毎回失敗する駄目なディレクターがいると工期が延びる。

          ─────────無間処理地獄: 切込隊長BLOG(ブログ) Lead‐off man's Blog


私自身を振り返っても、デザイン営業職→制作管理→版下制作→シルク印刷→UI設計→ムーヴィーエンコード→外部委託→映像制作と一個ずつ、スペシャリティを積んできた。そうした積み重ねを俯瞰してゼネラリスト的視点は生まれるかもしれないが、始めからは無理だと思う。


私たちはラッキーだったのだ。90年代からゆっくり進んだデジタル化の波頭でひとつずつ目の前のものを憶えて行くことができたのだから。それを数年で一気に圧縮して教えることは本質的には無理だ。これは、労務時間の制約が極めて厳しい上場企業でクリエイターを育成することの難しさを私が日々痛感しているのだから間違いない。


スペシャリティの基礎として情報デザインがあるという話はわかるけど、これだけでお腹いっぱいになって欲しくはないんだよなぁ。実際に手を動かすのがデザインなわけだから。ラピッドプロトタイピングの本を読んだら、本当に紙を切って、体験して欲しいのだ。


というわけで、午前中、情報デザインの教科書の編集会議。これも2年以上にわたる取り組みですが、やっとこの7月には出版できそう。インタフェースへの試みとしてビーマニ商品の紹介をしていますのでお楽しみに。*1みんな買ってね♪

●関連サイト

*1:もちろん、会社の許可を得て私も何ページか書いています。