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贈与という名のFREE

LotusNotes

企業ではおそらく最も使用するアプリケーションLotusNotesを開発しているIBMのなかのひと。
Lotus Scriptのtips紹介など、業務効率をあげるノウハウがいっぱい。
「プロペラ付き帽子」など、日本人にはちょっとわからない話もキュート

Adobe CS4 Production Premium, After Effects CS4, Premiere Pro CS4

デザイナーがいつもお世話になる、Adobe CS4 Production Premiumの映像サイドのなかのひと。
Adobe公式のお金のかかったサイトより、なぜかこうしたblogの方がわかりやすい。

processing

グラフィック描画に強い、とされるマサチューセッツ工科大学で開発されたプログラミング教育用ツール「processing」を使用しているゼミの講義アナウンスサイト。
デザイナーにプログラミングを基礎から教えるのは、資料の準備やらなんやら非常にたいへんなのですが、美術大学で学生に一から映像作品を作らせるためにプログラムの基礎から資料が準備されているこのサイトはたいへん貴重かと。

オーバーアチーブな人たち

こうしたサイトを見ていて思うのは、「本当に熱心だな」ということ。
特に、最初のおニ方は、会社員という身でありながら、自らの職務の情報を対象ユーザーに対して積極的に、個人のレベルで行っています。


個人のレベルというのは、下記の記述からの判断。

このところ、世の中の動きが速いので、どんどん情報が陳腐化していっていますが・・・
ギャップを埋めるべく、ブログを始めてみました。
できるかぎり更新していきます(業務時間外に)。

(業務時間外に)という記述が、会社の外ではなく、社内に対する弁明なのは、ほぼ間違いないかと思います。お気の毒に…。Adobeって結構厳しいのね。

このブログの情報を利用するに当たっては以下の内容についてあらかじめ御留意頂けますようお願いいたします。

  • このブログの内容は私個人の見解であり、IBMの公式見解ではありません。
  • このブログでは訪問者が節度と理解をもってここでの情報を利用する事を前提に最大限の情報をお出ししています。

 ここで紹介したサンプルコードやここでの情報を元にIBMに問い合わせたりする事は避けて下さい。このブログが長い間継続していけるようにするためにもよろしくお願いいたします。
また、サンプルコードを利用する場合もお客様の責任の元で十分にお客様環境での動作確認や影響度などについて検討の上で御利用下さい。ここでのコードを利用する事によって生じたいかなる問題についても私のほうでは責任を負いかねますのでよろしくお願いいたします。

こちらはもっと直接的。
システムテクニカルサービスセンターに勤務する人間が、自分が職務として扱っている商品に関する情報を、個人的にユーザーに開示する。ただし、あくまで個人レベルなので、内容に関して会社に問い合わせないで欲しい、と使用者にお願いをしています。読者の理解と善意を信じている。素晴らしい!


素晴らしいと思うのは私だけではないようだ。IBMの同僚からも熱い声援が贈られている。

これはある意味、革新的な出来事だ。

Lotus製品のサポートコールを受け付ける部門に所属する長島さんがブログを始めたと知って、さっそくアクセスしてみた。彼のLotus Notes/Dominoの知識はハンパではない。その名も「Notesサポートのつぶやき」。

IBMの人間がIBM製品の事をブログに書く場合、実名と所属を公表しなければならないというBlogging RuleがIBMにはある。サポート部門は、お客様からの製品障害のお問い合わせをよく受け付けるので、そういうところの人間が個人的に外部に露出するというのは、勇気がいったと思う。最悪、様々なクレームが直接ブログに書き込まれ、炎上だなんてことを考えてしまう人もいるだろう。それでもブログを始めたのは、持っているナレッジを皆と共有したいからだと長島さんは言う。
           ──────コラボレーション・エンジニアの考える日々

なかのひとがなかのことを書くルール

IBMはなかのことを書く際に所属と実名を公表する義務があるんだなぁ。
ちなみにマイクロソフトではこうなっている。

マイクロソフト社員のコミュニティ参加について

! 重要
 インターネット上のコミュニティサイトにおけるマイクロソフト社員による発言やコメントは、マイクロソフトの正式な見解またはコメントではありません。

 マイクロソフトの社員は、インターネット上の様々なコミュニティサイトにおいて、マイクロソフト製品に関するテクノロジや使用方法などの議論に参加することがあります。このような活動により、コミュニティサイトに参加されているお客様が、より有益な情報をより速く得られるよう、協力させて頂いております。

 但し、それらのマイクロソフト社員の発言やコメントは、その議論が行われた時点での情報であったり、個人の見解が含まれている場合もあり、マイクロソフトの正式な見解やコメントではありません。従い、マイクロソフトは、いかなるマイクロソフト社員の発言・コメントについても保証するものでないことを予めご了承下さい。また、コミュニティを通じて得られた情報に基づいて行ったお客様または第三者の行為につきましても、マイクロソフトおよびその関連会社は、いかなる責任も義務も負いかねますので、予めご了承下さい。詳しくは、各コミュニティの「利用規定」や「ガイドライン」をご参照ください。
           ──────マイクロソフト社員のコミュニティ参加について

このような活動により、コミュニティサイトに参加されているお客様が、より有益な情報をより速く得られるよう、協力させて頂いております。と、目的がきっちり定義されている。


個人の判断で、会社の守秘規約は遵守した上で、日本国内向け商品のサポートを、個人のレベルであくまで趣味として行う。会社は商品のサポートコストが下がり、ユーザー満足度に貢献する限り黙認するといったところでしょうか。


Adobeの古田さん(昨年のAdobeMAXでお会いしましたね、お元気ですか?)の方はドメインからAdobeのサービスを利用しているけど、IBMの長島さんはfc2という社外の無料のblogを利用している。
そういえば、以前UI学会(大阪大学だから2年前かな?)でロータスの開発の日本担当をされている方とお話したんだけれど、国内ユーザーの要望をステイツに伝えるのも文化の違いが合って大変だそうです。


「スケジュール?何でスケジュールをシェアする必要があるんだ?」


個人的には大変お気に入りのタスクリストとカレンダーのリンク。これを実装する際にはそんなことをいわれたそうです。まぁ、日本企業はミーティング多すぎなんですけどね。それでも、相手のスケジュールに合わせて、こちらも予定を立てるっていう考えはいいと思うんだけどなぁ。
確かに、Adobeは過去ユーザーグループを組織化していくなかで、それぞれの開発者が自分の言葉でユーザーと対話するという文化があります。*1IBMにしても勤務時間以外は、社外の仕事をして所得を得ても問題ないし、むしろそういった交流を通して自分のキャリアを構築していくという風土に変わってきている、と山崎先生からもお聞きしました。
───外資系だから自由なんだよ。
まぁ、そういうお決まりの言葉もあるよね。

ティッピングポイント

でも、見過ごせない変化がここにはあると私は思う。
これだけの文章をコンスタントに書くのは相当大変。しかも想定する読者は技術者で、内容に不備があってはまずい。例え業務で扱っている情報とはいえ、きちんと調べないとまずいなという事も実はかなり多いはす。スクリプトなら必ず各ヴァージョンで動作チェックを必要とするとかね。
それに守秘の問題や、業界にいるからこそ、書きにくいデリケートな問題は多々ある。書いた後、布団の中であそこは直した方がって、電気つけたりね。神経を使う。ある意味、地雷原に自分から入り込む。クビと隣り合わせ。正直、タダで、自分の時間を費やして、リスクもある、なぜこんなことを続けるのでしょうか?


その答えを私なりに考えたのですが、結局、googletwitterと同じフリーのビジネスモデルに近いんじゃないかなと。
───最初に贈与する。贈り物として心を込めて差し出す。
WEB上の無料サーヴィスのたいていはこれだし、その上にのっかるコンテンツも、贈与から始まるように思う。


ぶっちゃけ、IBMの長島さんも、Adobeの古田さんも、結局はLotusNotesやAdobe CS5 Production Premiumが自社のサーヴィスとして売れてもらわないと喰えないのは大きな背景として存在します。でも、お決まりの公式ユーザーサポートだけで、ユーザーが満足できるには、LotusNotesもAdobe CS5も複雑になり過ぎた。いつのまにか市場占有率も、独占禁止法に引っ掛かるんじゃね?というくらいガリバーになった。で、なったらなったで、ユーザー層もやたら拡散し、商品サポートサイトを設計するにもターゲットを絞りきれません。困ってると思うよサイト担当者。なかのひとが自分の興味のある周辺のことをつぶやきだしたのには、こういうことも背景のひとつにあるんじゃないかと思います。もちろん、自分がやりたいからっていうのが一番だとは思いますが。


自分の興味やモチベイションの続く範囲で、自分がやりたいから、タダで書く。(贈与)

  1. その範囲のユーザーには重宝される。(顧客満足→商品の売り上げに向上するかも。)
  2. リスペクトされて嬉しい。
  3. 書くことで、自分の業務の見直しになるし、横のつながり、つまり社外人脈も構築でき、自分のスキルアップやマネージメント能力の向上にもつながる。


こうしたメリットは全部後から来るもので、最初の「贈与」の際には予想はされども保証はされません。昔は予想だにされなかったかも。
それでも、楽しいから、やりたいから、最初の「贈与」が行われるのでは。


3番目の野口さんは、大学の中の人で、企業人とは違います。
一般に大学の職員は副業OKです。というか、本でも書いて印税でも貰わないと、講師程度では食べて行くのもカツカツだそうですね。
ですから、こうしたシラバスや授業内容の公開して、出版社の編集者の目に留まるようにしているといいます。こういうのは結構前(4〜5年かな?)から増えました。
もちろん、職場をステップアップする際に、こうしたサイトは大きな後ろ盾になります。セルフポートレイトだよね。産学共同研究(つまり企業からお金を引っ張るということ)が盛んな米国では、研究者のこうしたWEB上での発表はもっと多いでしょう。こうした見返りを相当見込んでのこととはいえ、それでも、最初、何もないところから始めることはやっぱりたいへんです。日本ではまだ少数といってよいかもしれません。だいたい、細かく作るのは面倒なのだ。色々突っ込む人もいるだろうし。


blogの口コミや人気のtwitterマーケティングも、単に、無料の告知媒体が1チャンネル増えた、程度の認識では、決してユーザーの行動に繋がる、わかりやすくいうと、「お金儲けにつながる効果」は期待できないんだろうね。「損して得取れ」と一言でいってしまえば楽なんだけど、損で終わる覚悟みたいなものがないと迫力でないような気がするなぁ。

いずれにせよ、人間社会の起源が「競争」ではなく「共生」から、「交換」ではなく「贈与」から始まったという「ことの順序」だけは忘れてはいけないと思う。
        ──────────内田先生のblog(政治と経済と武道について語る週末)

*1:グローバルビレッジの残り香。FreeHandはリリースしてやってよ。