The Bicameral Mind
大著「神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡」をやっと読み終えた。
この長い本を読み遂げるにあたり、私は「後記」から読み始めることをお勧めしてみたい。この後記は、初版出版10年が経過した後に書かれているため、著者が本書の記述に客観的な立場から補足しているように思う。だから内容がいっぺんに頭に入りやすい。
その後記では、この本について、次の4つの仮説について順番に述べていると記している。
- 意識は言葉に基づいている
- <二分心〜The Bicameral Mind〜>
- 時期
- 二つの部分からなる脳
以下、各仮説の概要を抜粋。(他の章からの補足も含む)
(1)意識は言葉に基づいている
知覚は生化学的な反応。認知も無数の神経系が複雑に絡み合った働き。
意識=内観はこれらと区別され、言語に基づき学習されるとする。
→言語自体の能力(抽象化した概念を扱えるか、センテンスの短さ、論理力)に使い手の意識は依存するっていうことになるのかな。いや、コワイ話なのだ。
(2)<二分心〜The Bicameral Mind〜>
意識の成立に先立ち(そう、昔の人間には意識は無かったとしている)、幻聴に基づいたまったく別の精神構造があったという概念。オデッセウスがゼウスの声を聞いたり、預言者が神の声を聞いたりした状況を記した文献や遺物を事細かに調査説明しています。
この本の骨子ともなる概念。
(3)時期
(1)の意識は(2)の<二分心>が崩壊後に、初めて習得されたという仮説。
- 紀元前2000年頃 <二分心>の崩壊が始まる。
- 紀元前1200年頃 <二分心>の崩壊が強まる。
- 紀元前1000年頃 <二分心>に代わり、意識が芽生える。 一部に<二分心>を維持した預言者、託宣者などが残るがだんだんと数を少なくする。
- 西暦0年〜 <二分心>を持つものは途絶える。預言者、託宣者の言葉は聖典として伝えられる。
- 西暦1000年〜 聖典もまた権威を失う。神の権威を自然の法則の中に求める科学の時代。
→<二分心>の崩壊の原因は人口過剰、大規模な戦争や自然破壊、文字の発達により命令の文章化などがあげられている。
(4)二つの部分からなる脳
(2)の<二分心>が、右脳ウェルニッケ野から左脳への声だったのではないかという説。現在の統合失調症患者の脳の研究から、幻聴を聞いているときに右脳が活性化していることなど、右脳の統合的な働きについての記述。
遺影
ジュリアン・ジェインズさんの写真が、裏側のカヴァーの見返しに印刷されている。虹彩は正面を向いているにもかかわらず、影のせいか、やや右上を寂しげに凝視しているように見える。右脳ウェルニッケ野にかつていた神を見ているかのようにぼくには見える。彼自身、子供のころは交響曲が脳内に響くことがあったという。本書のエウレカもまた右上からの啓示らしい。失われたものへの悲しみをその表情に読み取る。続編の期待が多い中、まさに脳溢血で亡くなったとのこと。享年77歳。
ところで「歿」って没の旧字体なのね。
読んでいて思い出したこと(1)
翻訳・初版が2005年なので、士郎正宗さんはこの本を読まずに攻殻*1を描いたことになるんだけど「ゴーストのささやき」もまた<二分心>なんだなと思った。義体化により体性信号の制御で<二分心>的なよすがを活性化するっていうこともできるかもしれない。義体化したらものすごく幻覚見そうだよね。
さて「囁く」という字は耳が一杯あるね。
読んでいて思い出したこと(2)
仕事でムーヴィーや画像を作っている際に、ほとんど記憶がなくなっているように感じることがごくたまにある。そういう時は実際にどうやって作ったのか、あまり憶えていない。*2確かに、幾夜もつめて作業をしていても、あまり疲労しない時期がある。そういう状態をZONEとぼくは呼んでいるけど、これに至るまでが結構大変なんだ。ものすごいストレスが<二分心>の原因というのは体験からも納得できます。ムダ使いとかして自分を追い詰めるんだけど、それはさしずめ、生贄のヤギですね。
- 作者: ジュリアンジェインズ,Julian Jaynes,柴田裕之
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- 発売日: 2005/04
- メディア: 単行本
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