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フォローアップ講習(横浜ワークショップ2008)

非常に残念ですが、21日のフォローアップ講習には参加できませんので、私のフォローアップ&リフレクションは文章でお願いいたします。明日から週末まで出張なので、今日は早く帰っていそいそと書いています。
21日の当日に各チームごとに指導を受けると思いますが、その足しになれば幸い。
私は職業デザイナーですので、経験を踏まえての意見となると、おのずから表現よりの記述になります。

ラフに仕上げる≠雑でOK

1日目に講師の皆さんが繰り返し言っていた「プロセス重視。アウトプットはラフで良い。」という言葉は、タイムマネージメントにおける優先度の話です。つまりプロセスに時間をたくさん使い、制作には時間をかけないでね、ということ。つまり、同じ時間で、一番キレイに仕上げる方法を探す、という指示でもあるのです。
しかし、最初からベストの方法を知っている人は達人です。
普通は少しやってみて、最後までの仕上がりを見通し、良くないなら他の方法を探すしかありません。
こうした試行錯誤は本来「プロセス」に半ば含んでいると私は考えます。
この表現を指向したトライ&エラーを1日目から多少なりとも行っていたチームは全くなかったように思います。


「でも、時間が少ないんだし」というエクスキューズは受け付けません。
業としてのデザインは、常に時間の制限が存在します。そしてたいていの場合、時間は不足しています。
時間が一番の資源です。それを最大限、効率的に配分してください。


描き終わって、「こんなはずじゃなかったなぁ」と思うのは、自分の腕を過信したか、仕上がりを予見する能力が低かったかのどちらかです。過信は日々の鍛錬で、予見する能力の不足はこれからの経験で補えます。がんばってね。


各チーム別リフレクション

2日目の発表をベースに返答します。

Aチーム「横浜居心地マップ」


最終の生成物がコレで、後はそれにいたるプロセスの説明という理解でよいですよね?
だとすると、この図をもっと丁寧に作るべきでした。

  • マーカーで塗るより、折り紙などのカラーペーパーを貼ったほうが仕上がりがきれいで作業も早い。*1
  • 文字はキレイにレタリングする。できなければ、ワープロでプリントアウトする。
  • カレントが「外人墓地」であり、他の場合もあるという説明のために、OHPシートなどの透明セルを重ね*2、場合分けがあることをひと目で感じれるようにする。

あと、展示の仕方ですが、これが最終生成物であることが伝わりにくいです。レイアウトを検討し、付帯情報の整理・削除を検討してみてください。見せたいものを一番に優先すべきです。


「音」から始まったマップ作りが「居心地」というキーワードを経て、最終生成物に結びついたのはとても良かったと思います。居心地を計測した手法をもう少し詳細に聞きたかった。

Bチーム「キョロマップ」


利便性としての地図ではなく、体験としての地図ということは理解しています。
ただ、まずは便利な地図をきちんと作れる事を達成した人間が、次のステップとして、より豊かな体験を得る事ができる地図に挑戦することが許される、というように私は信じています。丁稚や徒弟制度的、職人的な思想で、偉そうで極めて恐縮ではありますが、デザインを技能としてとらえれば、現代でもそういう面はあると思うのです。
そういった意味で非常に難度が高いテーマを選んでしまったな、というのが第一印象。


このテーマで行くとしたら、私なら俯瞰した地図等正確な利便性としても地図を全て捨て、体験型地図、つまりはゲームのようなものとして作りこみます。その際、さらに取材して表現をもっと作りこむのがポイント。ユーザーに探させるからといって、その分手が抜けるわけではないのです。ユーザーがキョロキョロ体験する以上の情報が最初からないと、そもそも興味を持ってもらえません。ディテールがディテールを生むのだと思います。

Cチーム「山下公園は銀河系?」


惑星がうまく描けていなかった。これはチーム員の方が一番残念だったと思います。
絵をうまく書くコツは、とにかく実物を見て描くこと。今回のような架空の図でも、樹やベンチなど、個々には現実的な部分があり、写生でディテールを追及する余地はあったと思います。あと、反則ですが、サンテグジュペリの本を探してきて、模写しても良かった。デザインはそういうのもありです。自己表現ではないので。


たた、個人的には、3つの相が1枚の図に同時にレイヤー状に反映しているモノが見たかったですね。最初にも言いましたが、少しやってみて「イケル!」という確信が得れなければ、別の手法も試してみるべきなのです。そのための時間を最初に計算しておくことも大切です。

Dチーム「坂見地図」


この図では坂のレイアウトと、その坂の高配を示しています。

  • 「重り」の1tの根拠は?図中の数値はすべからく科学的な根拠が望まれます。
  • そもそも、坂がキツイ!という共感があったと思うのですが、キツイを示すのに「重り」が最適なのか?直感的に伝わるか?
  • 模造紙への記載をもっと美しく描けないか?また、せっかく撮ったそれぞれの坂の特徴あるディテールを何らかの形で盛り込むことはできないか?坂の舗装。辺りの風景。雰囲気は個々のディテールの集合で生み出されます。1日目、木村さんのMAPに関する講習で、地図に立体の建物を配置するという手法を紹介されていました。これは大きなヒントになっていたかと思います。

上記を問題点としてあげますが、行き詰ったプランを捨てる勇気を持てたこと、結果短くなった時間でここまで作れたことは賞賛に値すると思いました。ぜひあとは表現を作りこんで11月の発表に備えてください。

Eチーム「クリステマップ」〜クリのカラを捨てる人の思考マップ〜


アクティングアウトは見ていて面白かったです。ただ、私の理解ではこうした一過性の行為は、あくまでキーとなるプレゼンなどの時に、意思決定者に対して最終生成物をより深く理解してもらうためのコミュニケーションツールであって、最終的な生成物とはまた違うように思うのです。だって、ユーザー一人一人に対して毎回アクティングアウトを行うことはできませんよね?従って最終生成物だけで通用する「ものづくり」が重要だと思います。


ソニーがフィリップスと協力して策定したCDという規格は、従来のレコードに比べ音質面で劣ることが指摘され、
普及に暗雲が立ち込めていましたが、ヘルベルト・フォン・カラヤンの献身的な支援がCDの導入に大きく貢献したそうです。

カラヤンは銀色に光るディスクを自ら聴衆の前にかざし、CDの将来を存分に語って下さった。」
────────SONYの旋律 (私の履歴書)より。

今ならジョブズの有名な「新商品のプレゼンテーション」を想起して頂ければ良いでしょう。ファイヤースターターとして彼らの権威・カリスマは今更ですが、CDもiPhoneもモノとして破壊的な技術と表現があった。薪がなければ火は付かないのです。
このチームは、最初から良いネタに出会えてラッキーだったし、チームにも恵まれた。*3その運に溺れて欲しくないのです。もっと高く薪を積もう!

Fチーム


このチームは楽屋裏でけっこうやいやい言ったのでもう今更ですが、どうしても気になったことを数点。

  • 発泡スチロールに紙貼りをした後は、慎重に扱う事。数箇所当てた凹み痕がありましたが、普通のプレゼンならやり直しです。昔は先輩デザイナーに「1個しかないので絶対失敗するな」と非常に高いプレッシャーの中で仕事を覚えさせられました。まっすぐに細くきること。細かなゴミを丁寧に取ること。最後は細部にまで気を使ってください。
  • それと、ピンの角度をどうやって算出したのか、今でもわかりません。人の歩く速度?密度?表現の面白さに流されず、数値を確実に追いかけて欲しい。


最後に私が「加速度センサーをつけて計測する」という話をしていたということなんですが、実はちょっと違って、「撮影した人間にマーカーをつけてトラッキングする」ということで、技法として全く異なるというか、全くのミス・コミュニケーションだったんですよね。ただ、こうした誤解からでも面白い表現が生まれるっていうことが話し合いのユニークなことで、私自身再認識しました。ありがとう。

Gチーム


このチームもけっこう答えに近いサジェスチョンをしてしまい反省しています。
発表に関しては「ギャップ」を示すということですが、ギャップの都度、変化の項目が変わるのが残念。一度項目を設定したら、最初から最後まで通して表示する方法を研究して欲しかった。変化する値を表示して、ギャップを明示する仕組みをもっと考えて欲しい。



こんな感じの折れ線グラフをOHPシートで重ねるとかね。


あと、巻物の表現ももう一ひねり欲しいのです。小学生の夏休みの宿題ですら、これくらいは作っています。→

情報化というたいへんな作業

感性も大切ですが、人に伝える際に数字は重要。事象からデータを読み取る訓練を繰り返し行ってください。
これは内田先生のエントリーを読むほうが良いので下記を参照。

関連エントリー

●参考サイト

*1:ムラなくマーカーを塗るのはかなりの訓練が必要です。ぼくにはできませんが。

*2:OHPシートを使った場合分けはペーパープロトタイピングでも多用される手法です。

*3:ワークショップをやるといつも思うのですが、「ドリームチーム≠良質なアウトプット」なのです。でこぼこチームがいい味を出すことは極めて多い!