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長い腕

外部委託先にライバル企業を選ばなくてはならないなんて、タチの悪い冗談か、ろくでもない夢だと思った。

同僚と三人でエントランスの中央にあるインフォメーションに向かう。すごい人だかりだ。オレンジ色の壁に人影が怪しく踊る。掻き分けやっと電話を一つ確保する。
ひろゆきに似た姓名を持つ高校時代の友人のN君がこの会社の開発の責任者の一人になっているらしい。今日はそのつてをためしに来たのだった。
確保した電話に、聞いていた部署の内線番号を打ち込む。長い呼び出し音の後、女性が応対に出た。ぼくは、同僚二人にゆっくり頷くと、受話器にN君への取り次ぎをお願いした。


Nは本日、すでに退社しております。


そこで目が覚めた。
一瞬でN君が既に鬼籍にあることを思い出す。
少しぞっとして、死がその長い腕をゆっくりと伸ばすことを思い出した。