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義肢の現在・過去・未来

義肢について、いくつかのエントリーを書いたのですが、実はこれ、小学校の子供たちが、学校の「総合」の授業で調べたことに付き添って得た内容を、ほとんどそのまま掲載しています。平たく言うと、パクリですね。もちろん、全年齢向けに調整はしていますが。


小学生の彼らは「言葉以外で伝えること」というテーマに対して、義肢義足というテーマを選び、その延長上として県立リハビリテーションセンターへ取材にも行きました。
子供たちの取材に協力いただきました装具士のマツバラさんから、「研究の成果をセンターで発表してほしいなぁ」というリクエストがあり、今月末にようやく実現することになりました。
本日、子供たちが集まり、模造紙を使ったポスタープレゼンの予行練習をしました。ついでに、学校の発表時には間違っていた誤植を修正したり、欠損していた1枚を再度作り直したり。難しい漢字や単語の意味を確認したり、にぎやかで楽しそうにやっています。


さて、ちょっと間があきましたが、続きを記載します。


義肢の現在について言うと、国内で義肢を使用する人は減っているそうです。
一つには、日本に大きな戦争がここ数十年全く無いことがあげられます。そもそも、義肢は戦争と深い関係があり、過去、義肢の発達は大きな戦争とともに進歩してきたそうです。
世界的に見ても、軍需産業が負傷した兵士のために、鉄鋼産業が負傷した労働者のために、それぞれ関連会社などを設立し、義肢の開発を行うということがあったそうです。戦争がないことは義肢使用者の減少に直結するそうです。 


もう一つには医療技術の進歩や、医療方針の変化があげられます。大きな怪我をしたり、色々な病気が原因で、四肢のいずれかを切断するような場合でも、現在の医療では可能な限り切断を避けたり、例え避けれない場合でも、切断箇所を小さくするようにするそうです。四肢があるということは、それ自体が身体性にとって重要なことであり、残せるだけ残すということは、理にかなっていると思います。


これらの結果、日本国内ではは、日常生活に義肢を必要とする人は減っているそうです。そのこと自体は、おそらく良い事なんだと思いますが、使用者が減るということは、需要が減りマーケットの縮小につながり、企業や研究機関の予算が減ったり、世間の注目・理解が減ることにつながる気もします。難しいですよね。


ちなみに、現在国内で使用されている筋電義肢は、ほとんどがドイツ製だそうです。以前は国内でも開発・製造を行っている会社があったのですが、現在その会社はもうないそう。ただ、戦争以外にも国内で筋電義手の需要が大きくなった時期があり、当時は国産にも力を入れていたそうです。
それがいつかというと1960年代で、目的はサリドマイドの薬害被害者のためでした。
当時、今よりもさらに高価だった義手の導入に、国はかなりの補助を積極的に行ったそうです。しかし、現在ほど、義手を実際に活用するトレーニングの重要性が徹底されず、結局使い方を習熟できるに至らない例が続出、追跡調査の結果、巨額の補助は無駄だったのではという指摘や反省がなされたそうです。
当時は現在ほど脳の働きの研究は進んでおらず、身体性の再構築に則ったトレーニングが不十分であれば、そうした結果になるのもある程度は仕方のない面もあったかもしれません。ただ、結果として、義手導入への補助金交付が過剰に抑制的になり現在に至るそうです。全く残念な話なのですが。
ちなみに、西ドイツのサリドマイド被害者は日本国内の10倍だったそうです。現在ドイツ製の筋電義手が国内で普及しているのもそうしたことに関係しているのかもしれません。


以前のエントリーでもお伝えしたように、国内の抑制的な状況は少しづつ変化しています。筋電義手の使用において、きちんとしたリハビリテーションを行い、追跡調査の実績も良好な事例が多く出てきています。こうした実績を持つ施設が、相互に連絡を取り合い、ネットワークが少しずつ日本中に広がっているというお話を聞くと、本当に嬉しくなります。チャンスが多くの人に開かれつつあるというのは素晴らしいことです。


義肢研究についても、需要が減ってきているからといって、決して滞っているわけではないと、マツバラさんはおっしゃいました。現在の筋電義肢は動くのが親指・人差し指・中指の三指だけですが、多くの人は五指全てが動くことを望んでいるそうです。関節の動きも、もっと本物に近づけたタイプも存在するそうです。ただ、仕組みが複雑になるほど、強度が下がるそうです。考えてみれば確かにそうですよね。義肢は眼鏡などよりも日常的かつ不可欠なものだけに、強度と機能のバランスの落とし所が難しいのだと思います。


また、現状の筋電義手のチャンネル数は2チャンネルですが、これをを増やす試みもされているそうです。ノイズとの戦いが大変そうですが。日本はロボット大国ですのでこうしたジャンルで世界に貢献していけたらいいなぁ。


昨今のIT業界では、iPhoneの成功からインタフェースデザインの重要性を指摘する声が大きくなっています。私自身、音楽ゲームGUIの仕事に長くかかわり、人と機械の間で情報をやり取りするインタフェースの重要性やこれからの未来に大変関心があります。
そんなときに義肢のマツバラさんに出会い、義肢のソケットを、各個人の切断面に応じて調整したり、使用のための綿密なトレーニングを行うお話を伺い、間違いなくこれもマンマシンインタフェースであり、こうした現場から多くのことが学べるんではないかと思った次第なのでした。

○義肢について