tQy

ユーザーを育てる難度

LEGOに限らず、ある程度継続していて、やりこみ要素がある遊びは、マニア化が進みやすい。まぁぼくの本業の音楽ゲームなんかはその最たるものです。


そこで問題になるのは、新しく入ってくるユーザー層に対する対策だ。彼らルーキーたちに、いち早くこの遊びに親しんでもらい、順番にステップアップしていく楽しみを、セットとして提供しなければならない。
LEGOの商品ラインナップは、年齢によってセットの難度を区別してきた。年齢の高い方が難度が高くなるというシステムだ。これは特に基本セット*1において、1970年代から1980年代に効果的に機能していたと思う。


それが、LEGOLANDシリーズが大きくSYSTEMに発展し、宇宙シリーズや、お城シリーズの成功によって、シリーズ物開発への比重が大幅に増え、基本セットへの注力がだんだんと弱まってきた。*2もちろんシリーズ内にもある程度の難度差はあった。だが、等しい世界観を共有するシリーズの宿命上、入門者から上級者までに対応するということは次第に難しくなってきた。*3


同時に環境も変わった。昨今、子供が手作りの遊びをしなくなったことを嘆く論調は多い。レゴの個包装が増えたのも、これに対する対策とのこと。

いまどきのレゴのセットは、全て透明の袋の中にパーツが入っているんですね。
僕が子供のころは、ボール紙のパッケージの中に直接ブロックがジャラジャラと入っていたと記憶しているんですが。

それが今では、大まかな構成単位ごとに番号まで振って小分けされている。
箱の損傷によるパーツ紛失を防ぐために内袋が必要だったということなら理解できるんですけど。
レゴ社の説明では、最後まで組み立てられない子供が多いためにそうしているとのこと。
何だか、寂しいというか情けないというか、
そこまでやってあげないといけないんでしょうかねえ…。

                                     キシイーヌのLEGOエクスペリエンス


LEGOと同様な組み立て玩具であるデルタックスに関しては、現状の市場を見る限り、残念ながらこうした子供たちの傾向に打ち勝つことはできなかったようだ。


LEGO自体のビルドに関しても、大きなパーツの使用や組応えのないビルドへの批判もある。
これに関しては、LEGO自体、ちょっとお金持ちのとこの子供の遊びだったと言う点を指摘したい。1970年代にLEGOを買える家は結構裕福な方だったと記憶している。従って、教育に熱心だったり、食べ物も良く脳の発達も充分な家庭の子供が多かったはずだ。多少難しいモデルでも充分対応しただろう。翻って現代の先進国では少子化が進み、従来LEGOを買わなかったような家庭の子供まで対象にした商品設計が求められている。基準は下に合わせるしかない。もちろんへービーに遊ぶには相変わらず金のかかる遊びだが、LEGO社としてマニアがメインターゲットではない。薄く広くがこの商売の原則だ。


ここら辺の気分は下記に全く同意です。

レゴは特にお金が確実に力に変わる趣味だからその辺りの感覚の温度差は埋めることの
出来ない事なのでしょうね。独身の社会人なんかお金の感覚が麻痺してる人多いから
学生がそれを意識するのはちょっと違う気がするし、多趣味傾向の強い人と
趣味を一本にする人との違いもあるだろうし。独身社会人ばかりの趣味の世界だと
とりあえずバラで買うより割安になるからコレがお勧めとか言われるんだから、
それに比べればカフェ1ダースくらいは許容範囲なんですよ。

〜略〜

黒字を確実に出すラインに設定して無駄な冒険はしないのは企業として
とても合理的でありすばらしいことです。

                                       凸『(現)それでもレゴも好き』凸


思えば、1990年代から21世紀の始めの数年までは、LEGO社自体がどの層に向かってモノづくりをするのか色々試していたような印象だった。


そういったある種の混沌とした状態を打ち消すかのように発売されたDesigner Setは、ひとつのセットの中に初心者からある程度の上級者までに応じた複数のモデルを準備しており、基本セット的な色合いを濃厚に含んでいた。*4


正直に言おう。Designer Setが出たとき、ぼくは「これでLEGOを辞めれる」と思った。世紀末をはさんだ10年くらいのLEGO社の迷走っぷりに心を痛めていたいちユーザーとして、Designer Setをみて「あぁ、やっぱりLEGOの人たちも分かってはいたんだ。よかった。安心。もうこれで大丈夫!」と胸をなでおろした。特に、#4101は、当時、考えうる限り、理想のセットだったと思う。


その後、Desiner Setは、CREATORシリーズにゆっくりと変容し、基本セット色は色褪せていった。ただ、現状の大型モデル色が強いCREATORシリーズもけして悪くはない。ぼくが今一番お勧めするのも、現状ではこのCREATORシリーズになる。


こうした背景を踏まえ、ぼくがLEGOの新商品を判断する基準<その②>は、「ユーザー層に応じた難度のモデルであるか?またそのモデル自体が次の難度へのステップアップの役割を果たしているか」です。ただ、これもあらゆる商品デザインに共通する話なんだよな。

*1:特定のモデルセットではない汎用のセット

*2:1990年代のカタログで、基本セットの扱いを見ると、その迷走っぷりがよく分かる

*3:これには例外がある。フェラーリのライセンスを受けた現行RACERシリーズとNASAのライセンスを受けた宇宙シリーズ「DISCOVERY CHANNEL」だ。両者はテーマが同一でありながら、デュプロからtechnicまでと非常に幅広いラインナップが特徴的であった。同時にライセンスモノでありながら価格が低めに設定されていたことも印象に深い。ともにDesigner Setがデビューした2003年以降の商品郡である事に注目したい。時代は変化したのだ。ありがたいことに。

*4:事実2003年のカタログには、基本セットDesigner Setと記載されている。確かにこれは生まれ変わった基本セットだったのだ